“痛み”は異常な感覚なのか?
みなさんは今までの人生の中で“痛み”を感じたことはあるでしょうか?
この問いに対してほとんどの方が「はい」と答えるでしょう。
それほど“痛み”というものはとても身近な感覚で、生きていく上で切り離すことのできない重要な感覚です。
あると不快に感じる“痛み”ですが、実は人間は“痛み”を感じるからこそ生きることができるといっても過言ではありません。
というのも、世の中には「痛みを感じない、極端に感じにくい病気」が存在します。
それが『先天性無痛無汗症』という病気です。
これは、生まれつき痛みを感じる神経や発汗機能をコントロールする神経が発育せず、痛みや熱さ冷たさを感じない(感じにくい)、汗をかかないという病気です。
これにより、ケガや火傷や骨折を繰り返したり、虫歯に気づかず悪化させたりして、体に障害を起こすことがあります。
また、体温調節ができないために、気温の変化で高体温や低体温になり、時に命にかかわることもあります。
人間は“痛み”を感じるからこそ、身体に差し迫る危険を察知し、命に関わるリスクを下げるように行動することができるのです。
我々のような治療家界隈ではよく「痛みがあるのは異常なこと」「身体に異常があるから痛みがある」ということをよく言われます。
私も患者さんにこのように言ったことはあります。
しかし、その度に私の頭をよぎるのが「本当に痛みは異常なものなのか?」という疑問です。
むしろ今は「痛みを感じることができるということは身体、特に神経系が正常であることの証明ではないか」と考えています。
“痛み”などの感覚というのは、神経の電気伝達によって感じることができます。
(細かい話はここでするには難しすぎるため割愛)
“痛み”を感じることができるということは神経の電気伝達が正常に行われている結果であり、この神経の電気伝達に異常があるとすれば「感覚がなくなる」方向へ進むはずです。
“痛み”という不快に感じやすい感覚であっても、感覚があるということは神経は正常に活動していると言ってもいいのではないかと思っています。
私の中では「痛みを感じること自体は正常なこと」だと考えていますが、「過剰に痛みを感じることがある」というのも事実です。
これを専門用語で『神経感作』というのですが、簡単にいうと「神経が過敏になって痛みを感じやすい状態」ということです。
(厳密には違いますが、イメージ的には歯の知覚過敏を思い浮かべていただいても構いません)
これは“痛み”を繰り返し感じることで中枢(脳・脊髄)や末梢神経の変化が起こり疼痛閾値(痛みをハードルのようなもの)が下がり、それにより痛みを感じやすくなるというものです。
この神経感作が起こるとどうなるかというと、例えば「皮膚を軽く撫でるだけでピリピリとした痛みを感じる」というように「ごく弱い刺激でも不快感(痛みや痺れなど)を感じる」という状態になります。
これを“異常”と言ってしまえばそうなんでしょうが、ただ、この機能はもともと身体にデザインされた機能でもあるので“正常”ということもできます。
このように、身体のさまざまな機能は明確に白黒つけられないことも多くあります。
この不安定で抽象的な部分を抱えながら、可能かどうかもわからない具体化をしていく作業が医療の一側面であり、医療者や治療家が延々と頭を抱えていく部分なのだと思います。
“痛み”は複雑で奥深くかけがえのない感覚であると私は感じています。
みなさんはいかがでしょうか?
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